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岡山家庭裁判所 昭和55年(家)630号 審判 1980年8月30日

申立人 中野吉子

相手方 中野セ子 外六名

主文

一  被相続人中野和助の遺産を次のとおり分割する。

別紙遺産目録記載の不動産を競売に付し、その売却代金から競売手続費用を控除した残額を、相手方中野セ子に三分の一申立人中野吉子、相手方小早川玲子、相手方中野光一、相手方中野昭子、相手方中野三郎に各一五分の二宛分配する。

二  本件手続費用中、鑑定人○○○に支給した鑑定料五万円は、相手方中野セ子が一万円、申立人中野吉子、相手方小早川玲子、相手方中野光一、相手方中野昭子、相手方中野三郎が各八、〇〇〇円宛これを負担することとし、その余の費用は各支出した当事者の負担とする。

理由

調査及び証拠調の結果を総合して当裁判所は次のとおり認定判断する。

一  相続の開始

被相続人中野和助は昭和二七年一月一八日岡山市で死亡し、相続が開始した。

二  相続人とその法定相続分

相続人は妻中野セ子(相手方)、長男中野正夫(相手方)、長女小早川玲子(相手方)、二男中野光一(相手方)、二女中野昭子(相手方)、三女中野吉子(申立人)、三男中野三郎(相手方)、四男中野正洋(相手方)の八名であり、従つてその法定相続分は相手方中野セ子が三分の一、その余の当事者は各二一分の二となる。

三  遺産の範囲とその評価

本件遺産分割の対象となる相続財産は別紙遺産目録に記載の不動産一筆のみであり、昭和五三年五月の鑑定時における右不動産の価額は三〇七万円強と認められるが、その現在価はこれをかなり上廻るものと推測される。なお、申立人は、被相続人が三宅某から借りていた岡山市○○の農地を被相続人の死後右三橋に返還した際に同人から相手方中野セ子に対して三〇〇万円位の離作料が支払われているのでその分配も併せて求めたい旨主張し、中野セ子も三橋から約三〇〇万円を受領したことは認めているが、調査の結果によると右金員は離作当時その農地を耕作していた相手方中野セ子本人ないしは同中野光一、同中野正洋らに対して支払われたものとみるのが相当であるからこれをもつて本件遺産分割の対象とはなし得ない。ちなみに右金員は他への貸金(なお、遺産分割に際しては、通常、金銭債権は当然分割となる)を含めすでに費消ずみであることが認められ、更に、一件記録に徴すると被相続人の遺産の一部が市道用地として買収された事実も窺えないではないが、その買収代金は極めて少額(第一回の調査報告書では上記の離作料がこの買収代金と混同されている)であるうえ、これも前同様すでに費消されていることが明らかであるところ、およそ遺産分割の対象となる相続財産は分割時に現存するものに限ると解するのが相当であるから、いずれにしても上記金員の帰すうはいずれも別途訴訟などで解決するのはともかく、本件審判中で清算すべき限りではない。

四  特別受益と各相続人の具体的相続分

相手方中野正夫の代理人中野清子、相手方中野正洋は、その審問において、正夫、正洋の両名とも被相続人から同人の生前に生計の資本として不動産の贈与を受けているので本件遺産分割に際しては自らの取得分がないことを自認しており(記録上からもその特別受益額が同人らの相続分額を超えるものと認めるに十分である)、従つてその具体的相続分は零となる。なお、申立人は、相手方中野光一、同中野昭子、同中野三郎にも特別受益がある旨主張し、同人らの審問及び調査結果によると、中野光一が○○の土地を買い受けた際、被相続人にその代金の一部を足してもらつたことは認められるが、これは被相続人の資産状態その他記録上窺われる諸般の事情からみてその扶養の範囲ないしは延長とみるのが相当であつて持戻の対象とすべきではなく、他には申立人主張のような特別受益と目すべきものは認められない。

ところでこうした超過特別受益者がある場合の具体的相続分の算定方法については多様な考え方があるが、当裁判所はいわゆる超過特別受益者不存在擬制説つまり超過特別受益者がいないものとして他の共同相続人間で法定相続分に従いその取得額を按分算出する方法を採る(ちなみに本件に則していえば、具体的相続取得分基準説ないしは本来的相続分基準説を採ると特別受益の種類とその額を確定することなどに更にかなりの調査と費用を要することにもなり、本件遺産分割の対象物件が一筆の不動産のみであることに照らしてもそれは当事者の本意にももとることになろう)。

以上によると各相続人の具体的相続分は相手方中野セ子が三分の一、申立人中野吉子、相手方小早川玲子、相手方中野光一、相手方中野昭子、相手方中野三郎の各一五分の二となる。

五  遺産分割の方法

一件記録にみられるとおり本件遺産分割の方法に関する各当事者の意向は変転としており、また、その内容も各人各様である。そこで当裁判所としては本件土地の形状、各当事者の意向とその資力、相続人間の対立関係、鑑定評価額についての問題点など諸般の事情を併せ考え、本件においてはその遺産を競売に付し、その売却代金から競売手続費用を控除した残額を上記相続人の各具体的相続分に従つて分配するのが最も公平、適切であるものと認め、なお、審判費用については上記のとおり各負担者を定めることとして主文のとおり審判する。

(家事審判官 磯部有宏)

別紙遺産目録<省略>

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